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天行健 君子以 自彊不息|2015年3月

 赤沢保育園の位置する新潟市中央区の下町地域の小学校、入舟・栄・湊・豊照の四校が生徒数減少のため今年の3月末で閉校することになり、同校区の生徒達は27年4月から新しく開設される日和山小学校一校に統合されることになりました。校舎は現在の栄小学校を建て替えて2年後に新校舎となる予定ですが、それまでの2年間、現在の入舟小学校の校舎を使用通学することになっている。
 昭和19年に豊照小学校を卒業した筆者ですが、実は近年、同校の同窓会に関係ありましたので、同校の閉校に際していろいろと関わらせていただきました。
 創立142年の歴史の豊照校、旧新潟町以来の新潟市の中で鏡淵校とともにもっとも古い歴史の母校が閉校になるとは、感無量です。明治6年(1873)、明治新政府が文明開化事業の大目玉として義務教育制度を発足、当時の新潟町(現在の新潟島地域)に五校を開設した。その五校とは鏡淵校・西堀校・四番堀校・洲崎校・豊照校で、豊照校以外はそれぞれ超願寺・光林寺・真宗寺・長音寺等の寺院で発足した。豊照校だけは北毘沙門町の料亭の建物を借家して校名を始め「勇進舘」で開校。程なく現在の敷地の見方町に校舎を新築移転し校名は隣接町内にあった豊照稲荷神社に因み豊照校となった。

 さて、上掲の昭和18年(1943)の豊照校創立70周年記念式の写真です。この中に私(園長)は生徒として入っている。写真正面演壇上は校長坂井義雄先生。その右手上の扁額には「自彊不息(じきょうふそく)」の四文字が書かれている。三条市出身の鈴木壮六陸軍大将の筆によるもの。語句の出典は孔子の論語、全文は上掲の「天行健(てんこうけん)にして君子(くんし・心がけ正しい人)は自彊(じきょう)にやまず」となる。その意味は、「天の日・月・星の規則正しい動きのように心がけある人は常に自分を強める努力を止める事がない」。彊は強と同意。「不息」は息をするようにやめないことを意味する。執筆者が軍人のため処分されたのか現在所在不明。その力強い字影はいまでもはっきりと目に浮かんでくる。

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 冬の二月初旬、新潟市内西区赤塚の佐潟(サガタ)沿いを車で東京からの友人と走った。佐潟は知る人ぞ知る白鳥飛来数が7000羽以上と水原(スイバラ)の瓢湖(ヒョウコ)よりも多い日本一のスポット、つい先年までは自然が多く残っていた街道沿いの湖岸、今はすっかりと整備され、駐車場、ベンチや公衆トイレなども設置された。白鳥見物もありそこで一服。

 頭上や水面に舞い遊ぶ白鳥を眺めながら文学好きの友人の脳裏に浮かんだのが上掲の短歌。私に向かって『白鳥を見てこの歌をおもいだしましたが作者が思い出せません。ご存じですか?』 たしかに有名な聞き覚えのある短歌。だが残念ながら私も思い出せなかった。たしか明治期のものと懐かしい気持ちでその後確かめた。

 作者は旅と酒をこよなく愛した明治18年(1885)宮崎県生まれの歌人若山牧水(ぼくすい)。

房総沖を詠んだと言われる白鳥の歌の解釈は次の様になるのでしょうか。

  「(ハクチョウではない)白い鳥(カモメ?)が空の青色にも別の海のアヲ色にも負けないはっきりとした白を際立たせて水の上を漂っているその姿のいじらしいことよ。」

 時には明治人のセンスにも親しんでみましょう。牧水の旅の歌・酒の歌を数首:

   幾山河越えさり行かば寂しさの  はてなむ国ぞ今日も旅ゆく

   上野と越後の国のさかひなる  峰の髙きに雪ふりにけり

   人の世にたのしみ多し然れども  酒なしにして何のたのしみ

 しっかりと酒と旅を楽しんだ牧水、肝硬変で昭和3年43歳で早々とあの世に旅立った。

  注)上野=こうずけ=群馬県

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