正常性バイアス

波乱の幕開けとなった令和6年、地震の発生からすでにひと月が経とうとしていますが、未だに避難生活を余儀なくされている方々をニュースで見るたびに切なくなり、被災地の一刻も早い復興を願わずにはおれません。

幸いにもこの保育園のある近隣では地震や津波、液状化現象といった大きな被害も出ることなく、園舎の壁に多少のひびが入る程度で済みましたが、今回の地震を受け、保育園ではさまざまな災害時の対応、避難体制の確認と見直しを行いました。

ところで大きな災害が起きた時、特に津波という文字を見ると必ず私の頭の中に一つの言葉が浮かんできます。それは「正常性バイアス」という言葉なのですが、みなさんはこの言葉をご存知でしょうか?人は何か異常事態が身の回りに起きてもその事態を正常の範囲内として捉えることで心の平静を保とうとします。それは人々の心の中で「正常性バイアス」が働いているからなのです。日々の生活の中で起きる物事の変化から過度にストレスを受けないよう我々の心の平穏を保つように働いている「正常性バイアス」も、災害時にはマイナスに働いてしまいます。

日本に住んでいればほとんどの人がある程度の地震の揺れを経験しているので、地震が起きてもそれがどの程度の規模なのかは瞬時に把握できます。しかし津波に関しては多くの人はテレビなどで見て知ってはいるものの実際に体験したことがある人はおそらく僅かだと言えます。多くの人にとって津波は未体験で非現実的な出来事、自分の身に起きるとは思えない出来事として意識の中に存在しています。

仮に大きな揺れの後すぐに津波警報が出たと想定し予想される津波の高さが30~80センチだったとします。その警報を聞いてみなさんはどのように感じてどのような行動をとるでしょうか?「津波の高さが自分の腰の位置よりも低いのであればきっと大したことないかもしれない。」「過去の大震災で起きた大きな津波とは違うな。」「周りの人たちが避難するようなら自分も避難しようかな。」もしそんな思いが頭をよぎったならば、それがまさに正常性パイアスの仕業なのです。過去に起きた大きな津波でもこの正常性バイアスのせいで多くの人々が逃げ遅れ被害にあっています。実際に30センチの高さの津波でも人は容易に足をすくわれ流されてしまうという事を決して忘れないでください。50センチの高さの津波であれば成人男性でも立っていることは不可能なレベルです。(なお東日本大震災時の津波の高さは最大で40.5メートル、10階建ビルの高さに相当します。)津波が起きた際は一分一秒でも早く高い場所に逃げなければなりません。避難する際の判断に時間がかかってしまうことは致命的なのです。

そのとっさの判断をするためにもう一つ重要なのは事前にしっかりと情報を把握しておくことです。津波が発生した際、自分たちの住んでいる地域はどの程度の津波が想定されるのか、どのくらいの時間で津波が来るのか、また避難する場所はどこなのか、日頃からハザードマップを確認し、津波の規模にあわせた避難経路をあらかじめ想定しておくことは非常に重要です。

そして災害発生時には自分の中の「正常性バイアス」が働いていることも頭の片隅に置いておいてとっさの判断をしてください。