親の嘘|2021年10月

 2歳になる姪っ子を丸一日預かって面倒をみたときのことです。手をつないで歩いていると、ふと目の前に「うわぁー、これはねだられそうだな~。」と思える場面に出くわしたのでした。私は思わず踵を返し「今日はお金持ってないからね。」と先手を打ったつもりが「うそ!もってるよ」と姪っ子は駄々をこねてしまったのでした。

 この2歳児はおそらく似たような状況下で親から同様のセリフを過去に言われた経験があり、その経験から私の発言を瞬時に嘘だと思ったのでしょう。実際には本当にお財布を持っていなかったのでお金はなかったのですが、親はしつけのつもりで子どもに嘘をつくことがあり、その親の嘘はどのような影響を子どもに及ぼすのか、とても気になったので調べてみました。

 調べていくとダブルバインド(二重拘束)という言葉が出てきました。ダブルバインドとは二つの矛盾したメッセージを出して相手を混乱させる可能性のあるコミュニケーションのことで、親子間に限らず大人の世界でもあることで、エスカレートすればハラスメントに発展するものでもあります。

 では具体的に親子の間でよくあるダブルバインドの例を挙げてみましょう。「おもちゃを片付けなさい、片付けないなら全部捨てちゃうよ」とか、(親)「好きなものなんでも買ってあげるよ」(子)「じゃあこれが欲しい」(親)「これはダメ」(子)「好きなものなんでもいいって言ったじゃない」というものです。誰もが子どものころに言われた経験があり、親になった今は日常で無意識に使っているものではないでしょうか。もちろん親には嘘をついているという意識は微塵もなく、いつだって子どもには「いい子に育ってほしい」「幸せな人生を歩んでほしい」と願っているのです。でも何気なく発せられた親の嘘や矛盾のメッセージで子どもたちは混乱し不安を感じて追い詰められているのです。追い詰められた後でそれが嘘だと知ったら、子どもはどんな気持ちになることでしょう。子どもには「嘘はついてはいけないよ」と教える親が、一方では子どもたちに嘘をついていては説得力がありません。どんなに子どものことを思ってついた嘘でも、嘘は嘘なのです。

 では、いかなる場面でも親は子どもの前で一貫性を保ち、嘘のない正直な姿でふるまわなければならないのでしょうか。完璧を求めるあまり、親がストレスを抱えてしまっては逆に子どもにも悪影響でしょう、と個人的には思います。言葉の駆け引きから相手の嘘や本音を見抜くことも成長していく上でとても大切な学びだと思います。まだ経験や理解力が浅い子どもには時には大げさな表現で物事の重大さを伝えることも一つの手段だと思います。

 2歳の姪っ子はつい半年前まではまだ片言しか話せなかったのに、ずいぶん大人なやりとりができるようになったことが私はとても嬉しく感じました。大切なのは子どもとかかわれる時間や成長を楽しむことではないでしょうか。